最高のサンドウィッチ


エステルはハルルの樹が好きらしい。
星喰みとの戦いが終わった後、ハルルに住みたいと言った彼女を住人達が受け入れてくれて、今ではエステルはハルルに身を置いている。
以前エステルがハルルの樹を蘇らせたという事もあり、村長を始め、住民達から是非にと大歓迎されたらしい。
ユーリにとってもこの方が好都合だったので、何も言わなかった。
お城に居られると会うのは難しくなってしまうので、ハルルに居てくれる方がずっと会い易くていい。
実際ユーリも度々ハルルを訪れ、最近ではザーフィアスの下町に居るよりも、ハルルに居る事の方が多くなってきた。

ユーリ自身も旅が終わってもエステルと一緒に居たいと思うようになっていた。

ただ、せっかく会いに来たというのに、当のお姫様はユーリを放ってハルルの樹に夢中なのだが‥‥‥‥。





「エステル、腹減ってないか?」
「え?」
急に後ろから声をかけられ、エステルはびっくりして振り返ると、サンドウィッチの乗ったお皿と毛布を持ったユーリが立っていた。
「あ、ユーリもハルルの樹を見に来たんです?」
「いいや、誰かさんがなかなか戻って来ないから来てみたんだけど。」

ハルルの樹を見てくると言って外へ出たきり、なかなか戻って来ないエステルが気になって、ユーリも来てしまったらしい。
「毎日毎日見て楽しいもんかねぇ〜。」
「え?ユーリは綺麗だと思いません?」
「あ?そりゃまあ綺麗だけど‥‥‥。」
それよりもせっかく会いに来ているのに、放っとかれてる方が気になるんだけど‥‥‥と言う言葉はあえて飲み込んだ。
「はぁ‥‥‥‥。」
「どうかしたんです?」
「ん?ああ、まあ‥‥いいけどな。今は。」

ユーリは持ってきた毛布をエステルにかけてやると、自分もエステルの座っている隣に腰を下ろす。
「夜は冷えるからな、風邪引くぞ。」
「ありがとうございます。あ、でもユーリも風邪引いちゃいますよ?」
「オレは鍛えてるからな、この程度なら何でもないけど。」
「でもちょっと寒いですよ?ユーリが持って来てくれたんですから、半分どうぞ。」
そう言ってエステルはかけてもらった毛布を半分ユーリにかけた。
「悪いな‥‥‥。」
そんなつもりじゃなかったんだけどなと思いながら、ユーリは言われるままエステルに半分毛布をかけられた。
「大きいから二人で丁度いいですね。」
ユーリを見てエステルが微笑むと、ユーリも優しく笑う。

彼女に出会う以前の自分なら、こんな優しい笑い方はしなかっただろう。
彼女に出会ってから、自分もずいぶん変わったものだとユーリは思った。



「暖かいです。」
「だな。」
何の躊躇いもなく当たり前のようにピッタリくっついてくるエステルを見て、ユーリは苦笑した。
全くそういう意識をされてないのか、信頼されていて警戒されないのか、どっちにしても複雑だ。
仮にも好意を持っている相手にこんな風にくっつかれて、平常心でいろというのはかなり酷な話だ。
(こういう事するのはオレだけにして欲しいもんだね)
そう思わずにいられなかった。

旅を始めた時からそういう鈍い所は全然変わってないな‥‥‥と改めてユーリは思った。



「で?腹減ってないか?」
そう言いながら、ユーリは横に置いたサンドウィッチの乗った皿をエステルに指し出す。
「わあ〜!サンドウィッチですね。」
エステルは凄く嬉しいといった感じで、ぱあっと笑顔になった。
「ちゃちゃっと作ったからな、こんなモンで悪いけど。」
「そんな事ないです!とっても嬉しいです!」
「こんなモノで喜ぶなんて、欲がねぇな、エステルは。」
「そうですか?とっても美味しいですよ?」
「そっか、ならいいけどな。」
エステルを見ると本当に嬉しそうだ。目が輝いているようにも見える。
「頂きます。」
「はいどうぞ。」
どんな場所でも、食べる前にちゃんと“頂きます”と手を合わせるあたり、さすが育ちの良いお姫様だ。
エステルはサンドウィッチを一つ手に取ると、一口、二口と口に運んでいく。
こうも美味しそうに食べられると、悪い気は全然しない。
むしろ、これはかなり嬉しいかも‥‥‥とユーリは思った。

「美味しいです!相変わらずユーリは料理が上手ですね!」
「ただのサンドウィッチだろ?誰でも作れるって。」
「こんなに美味しいサンドウィッチ作れるのはユーリだけです!」
「い、いや‥‥‥ホントそんなに大したモンじゃないんだが‥‥‥。」
そこまで言われるとさすがに照れたのか、ユーリは照れを隠すため、一旦逆方向に顔を逸らした。

再びエステルに目をやると、あまりに美味しそうに食べる彼女を見て、ユーリは自然と顔が緩む。
「エステルはサンドウィッチが好きなのか?」
「え?いえ、特別好きというわけではないんですけど‥‥‥。」
「そうなのか?美味そうに食べるからさ。」
「それは‥‥‥ユーリが‥‥‥えっと‥‥。」
「ん?」
「ユーリが作ってくれたから‥‥あの‥‥。」
エステルはちょっと恥ずかしそうに口ごもり、一旦言葉を区切る。

初めて出会って一緒にザーフィアスを抜け出した後、ユーリが森で作ってくれたサンドウィッチ。
エステルは初めてユーリの作ったサンドウィッチを食べた時、とても美味しく感じた。
お城の食事とは全然違う、シンプルだけど暖かいような何かを感じた。

「あの時。」
「ん?」
「出会って間もない頃、クオイの森で倒れた時、初めてサンドウィッチ作ってくれましたよね。」
「そうだったな、そういや、あの時ニアの実かじって、エステル凄い顔してたもんな。」
「もう〜!そうじゃないです。」
「悪い悪い。」
ユーリはハハっと笑う。
「その時にユーリが作ってくれたサンドウィッチがとっても美味しかったんです。」
「え?」
「わたし、ユーリの作ってくれたサンドウィッチが大好きです!」
真っ直ぐに満面の笑顔を向けられる。
「そ、そっか‥‥ありがと‥‥‥な。」
「はい!大好きです!」
不意打ちだとユーリは思った。
あくまでも“サンドウィッチ”が‥‥‥‥‥という事だろうが、解って言ってるならともかく、解ってないだろうから性質が悪い。

「解ってんのかね?このお嬢さんは‥‥‥。」
「?何がです?」
「いいや、何でもねぇよ。また作ってやるからな。」
「はい!楽しみにしていますね!」

「あ、エステル。」
「?何です?」
「タマゴ付いてる。」
「えぇ〜!?ど、どこです?」
「ここ。」
ユーリはエステルを引き寄せると、ペロっと彼女の唇を舐めた。
本当はタマゴなんて付いてないけど。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
エステルの声にならない声が聞こえた気がした。
なかなか気付いてくれない彼女に、ちょっとは意地悪もしたくなる。
これで少しは自分の事も意識してくれればいい。
「〜〜〜!ユ、ユ、ユーリ!!」
「ごちそうさま。」
口元を押さえて真っ赤になっているエステルを見て、自然と笑みがこぼれる。
どう考えても、彼女を手放す気はない。


サンドウィッチなんかで繋ぎ止められるなら、いくらでもお安い御用だとユーリは思った。










〜後書き〜

ユリエス初書きです。
どっちかっていうとユーリ→エステルな感じになってしまいましたが、エステルもちゃんと好意を持っているって感じですかね。
別にエステルはサンドウィッチが好きという設定じゃないんですが、ユーリが作ったサンドウィッチなら大好きだったらいいな〜と。
最初のクオイの森イベントの、「ごちそうさまでした」「お粗末さまでした」がかなりツボってしまって、何この夫婦っぷりは〜vvvって感じでサンドウィッチネタが出来ました。(笑)