すぐ傍に貴方が居て‥‥
星喰みを倒した後、それぞれ皆自分の道を歩み始めてから暫く月日が経っていた。 エステルも皆と別れて、自分のするべき事をやる為に、ひとまずザーフィアスのお城に戻っていた。 ユーリはギルドの仕事をしながらも、基本的にはそのままザーフィアスの下町の自分の部屋での生活を続けて居た。 ギルドに所属しているので、遠出などで何日もザーフィアスを離れる事も度々あるが、ザーフィアスに戻って居る時は、ラピードと一緒にエステルに会いに来る事もある。 エステルの所には、ユーリとフレン以外にも時々リタが遊びに来たり、たまにジュディスやカロルやレイヴンがひょっこりと訪ねて来たりするので、エステルは旅が終わっても仲間と一緒に居るような感じがしていた。 旅が終わってしまったらもう、皆と会う事はなくなるかもしれない‥‥‥‥‥と思っていたエステルにとっては、これ以上にないくらい嬉しい事だった。 自分の立場上、なかなか自由に外を動き回れないので、自分から会いに行くという事は難しいが、こうやって皆が時々会いに来てくれるのだから。 「今日もいい天気になりましたね。」 本を読む手をそっと止め、エステルが眩しそうに目を細めながら窓の外を見ると、窓からは明るくて眩しい日差しが差し込んでいる。 エステルは立ち上がり、窓に近付いて外を眺めると、晴れ渡った青い空と透明な日差しがとても暖かい。 「わぁ〜!綺麗!」 う〜んと伸びをして深呼吸すると、微かに風に運ばれてくる木々や草花の香りが心地良く鼻をくすぐる。 「ふぅ‥‥。」 一息ついた後テーブルに戻って椅子に座ると、再び読みかけの本のページを捲る。 ぽかぽかと暖かいとても穏やかな時間の中、エステルは自分の部屋で本を読んでいた。 普段は執務で忙しいが、あまりにも真面目に黙々と仕事をする彼女に、無理せずちゃんと休憩をとるようにと、ヨーデルとフレンにしつこく言われている為、こうやって毎日少しの時間は休憩を取るようにしていた。 休憩といっても、たいてい本を読んでいる事が多いのだが‥‥‥‥。 「よっ!エステル!」 「えっ?」 「相変わらず本ばっか読んでんのか?」 エステルはページを捲る手を止めて、声の聞こえた窓の方へ振り向くと慌てて立ち上がった。 「ユーリ?!」 「よっと。」 ユーリは身軽に窓から飛び降りて中に入ると、エステルの傍まで来た。 「普通に入り口から入ってくれば良いのに‥‥もう誰も捕まえたりしないですよ?」 「や、何つーか、そういうのガラじゃねぇだろ‥‥‥。」 「そう‥‥‥かもしれませんね。」 「だろ?」 今までのユーリの所業の数々を思い返してエステルがクスっと柔らかく笑うと、それを見たユーリも口元に笑みを浮かべる。 「あれ?」 エステルはいつも一緒にいるはずのユーリの相棒が居ない事に気付く。 「今日はラピードは一緒じゃないんです?」 「あ?ああ、あいつは今日は留守番。」 (というかラピードのヤツが気を利かしてくれたんだけどな) 「そうですか‥‥‥残念です‥‥。」 本当に残念そうな顔をされると、ユーリは少し面白くない気持ちになった。 「ラピードが居ると、お姫さんはオレを放っておいてラピードばっかり構うからな。」 「えっ?ほ、放ってなんてないですよ?」 「どうだかね‥‥。」 (ラピードに妬いてもしょうがねぇよな‥‥‥) 「ふふっ。」 「ん?どした?」 「また‥‥‥‥こんな風に会えるとは思ってもいませんでした。」 「そうか?」 「旅が終われば、もうユーリとは会えなくなると思ってましたから‥‥‥。」 「ふ〜ん、エステルは用が済んだら、はい、もう貴方とはさようなら‥‥‥って訳ね‥‥。」 「そんなつもりじゃないです!」 「ま、下町育ちの平凡なオレと、お城で育った貴族のお姫様とじゃ全然釣り合わないもんな。」 「な!そんな事思ってないです!‥‥‥‥‥‥どうして‥‥‥どうしてそんな事言うんです?」 慌てて全力否定するエステルに、ユーリはククッと笑った。 「ウソウソ、冗談だよ。」 エステルを見ると、俯いてちょっと泣きそうな顔になっている。 (やべ、ちょっと苛め過ぎたか?) 「悪ぃ、ふざけ過ぎた‥‥‥。」 ユーリがエステルの頭を軽くポンポンと撫でると、エステルは顔を上げてむ〜っと睨み、そのままフイっと踵を返した。 「もう〜、意地悪です‥‥‥‥。」 怒っているようには聞こえないが、少し機嫌を損ねてしまったと思われるエステルの後姿を見つめながら、ユーリは苦笑いをした。 「はいはい、悪かったって。だから機嫌直せよ?」 む〜っと頬を膨らました彼女をユーリは後ろからそっと抱き締めると、あやすように言った。 「‥‥‥ふふっ‥‥。」 「エステル?」 「相変わらずだなぁって思って。」 「オレが?」 「はい、そのままのユーリで安心しました。」 「そりゃどうも‥‥‥って言うべきなのかね?」 クスクス笑うエステルを見て、ユーリもふっと安心する。 「お前も全然変わってねぇよな。」 「えっ?変わってないです?」 「ああ。」 「そう‥‥‥‥ですか‥‥‥。」 「なーに落ち込んでんだ?」 「だって‥‥‥。」 「そのまんまで安心したって言ってんだけど?」 「変わらない方が良いって事なんです?」 「あ?外見の事じゃねぇぞ?心は優しいままで居て欲しいって意味だからな?」 「あ‥‥‥そ、そうですね。ユーリも変わらないで居て欲しいです。」 エステルが振り向いて見上げると、自分を覗き込むユーリと目が合う。 そのまま柔らかく笑いかけると、それに答えるようにユーリも柔らかく笑った。 「ま、オレも正直、お前とここまで長い付き合いになるとは思ってなかったからな。」 「本当ですよね。」 「最初は、エライもん拾っちまったなーって思ったけどな‥‥‥。」 「何です?それ。」 「いや、こっちの話。」 「もう〜、ユーリは‥‥‥。」 「ははっ。」 ユーリは回した腕にそっと力を込める。 「ユーリ?」 「でもな、出会っちまったモンはしょうがねぇだろ?今更知らない他人です‥‥‥とか絶対無理だからな。」 (今更、離せるわけねぇだろ) 「ふふっ。そうですね。出会えた事に感謝しなければいけませんね?」 「だな‥‥‥‥。」 幸せそうに笑うエステルを見て、ユーリも幸せな気持ちになる。 エステルだけでなくユーリ自身も、二人で過ごせるこんな穏やかな日々が訪れるとは夢にも思っていなかったから。 だからこそ、この時間を大事にしたいと思うようになっていた。 「ユーリ。」 「どした?」 「わたし‥‥‥嬉しいんです。」 そう言うと、エステルはユーリの腕をするっと抜け、向かい合って優しく笑う。 「ん?」 「旅が終わっても、こうやってユーリと一緒に居られる事がとても嬉しいです。」 「あ〜、そ、そっか?」 「はい、すぐ傍に貴方が居てくれるという事がとても嬉しいです!」 「っ!」 真っ直ぐに向けられた笑顔と共に返って来た言葉に、ユーリは一瞬言葉を失った。 (参った‥‥‥。) 「お、おまっ‥‥‥‥‥時々すげー恥ずかしい事サラッと言うよな‥‥‥。」 「えっ?‥‥‥‥‥あっ‥‥‥‥‥!」 目を逸らして口元に手を当てて照れているユーリを見て、エステルも急に恥ずかしくなり、顔がカァーっと熱くなった。 「あ、あの‥‥‥‥今の聞かなかった事に‥‥‥。」 「出来ねぇな。」 「あぅ〜‥‥。」 真っ赤になって頬に手を当てるエステルを引き寄せると、もう一度腕の中に閉じ込めた。 「ユーリ?」 「‥‥‥‥オレも、お前の傍に居れる事が嬉しいからな。」 そう言うと、ユーリはエステルの額にそっとキスを落とす。 ガタンッ (わわっ!) (ちょっと〜、静かにしないと聞こえちゃうでしょ〜?) (おじさま、声が大きいわよ。) (ちょっと、皆!静かにしてよ。) (フーッ) 「‥‥‥‥‥‥。」 「?‥‥‥‥‥今何か、聞こえませんでした?」 はぁ‥‥‥と、ユーリは盛大な溜息をつくと、エステルから手を離す。 「‥‥‥‥‥‥ちょっと待ってな?エステル。」 「え?どうかしたんです?」 スタスタと窓に向かったユーリは窓の下を見下ろすと同時に、低い声で話しかけた。 「おい、アンタら‥‥‥。」 「わーっ!!」 「おわっ?」 「あら?」 「あれっ?」 「ワフッ。」 「聞こえてんだよ‥‥‥‥。」 エステルも慌てて窓に駆け寄ると、そこに居る皆の姿に驚いた。 「まあ?皆さんお揃いだったんです?早く言ってくれれば良かったのに‥‥‥。」 「あ、いや‥‥‥あの‥‥‥えへへへ。」 「いや〜何つーか、青年と嬢ちゃんいい感じだったんで、邪魔しちゃマズイかな〜って‥‥‥。」 「だから、温かく見守ろうかしらと思って‥‥‥。」 「‥‥‥‥エ、エステルが嬉しそうだったから‥‥‥その‥‥‥。」 「クゥ〜ン‥‥‥。」 「‥‥‥‥‥ったく。」 頭を抱えて呆れ返ったユーリとは逆に、ぱあっと笑顔になったエステルは本当に嬉しそうだった。 「ふふっ。皆、来てくれてありがとうございます。」 「エステル‥‥‥。」 「嬢ちゃん‥‥‥。」 「私、こうやってまた皆に会えるのが凄く嬉しいです。」 「何言ってんの、と、友達でしょ?いつでも遊びに来るわよ。」 「リタ‥‥。」 「そうだよ、ボク達、仲間だもんね。」 「カロル‥‥。」 「そうよ?いつでも会いに来るから。寂しくなんかないように、ね?」 「ジュディス‥‥。」 「そーそー、水臭い事言わないの。」 「レイヴン‥‥。」 「わ、私‥‥‥幸せ者ですね。」 すぐ隣に居るユーリを見上げると、黙って優しく微笑んでくれる。 嬉しくて泣きそうになったエステルの肩を、ユーリはそっと抱き寄せた。 エステルがぐるっと皆を見回すと、そこには大切な仲間達の笑顔がある。 何も言わなくてもすぐ傍に貴方が居てくれて、そして仲間が居てくれる。 もう自分は寂しくない、独りでもない、すぐ近くに皆が居てくれるから。 ありがとう‥‥‥‥‥。 大切な人達がすぐ傍にいてくれる事が、こんなにも幸せなのだという事に改めて気付かされたエステルは、もう一度、ありったけの笑顔で微笑んだ。 〜おまけ〜 「クゥ〜ン‥‥‥。」 「ユーリ、ごめん‥‥。」 「青年〜悪かったって‥‥邪魔するつもりはなかったのよ〜?」 「次に来る時は、ちゃんとタイミングを考えてから来る事にするわね。」 「ま、あいつが喜んでるから、別にいいさ‥‥‥。」 ユーリは軽く苦笑いをした。 「ちょっと!あんまりエステルいじめないでよ。」 「ああ?可愛いだろ?」 意地悪そうに笑うユーリにリタが突っかかる。 「アンタねぇ〜!」 「まあまあリタ、でも、彼女が幸せそうで安心したわ。リタもそうでしょ?」 「そ、そりゃ‥‥そう‥‥だけど。」 「でもホントに、エステル元気そうで良かったね、これってユーリのおかげかな?」 「おっ!少年、言うようになったじゃな〜い。」 「やれやれ‥‥‥‥賑やかな連中だな‥‥‥。」 「ワフッ。」 「お前もだぞ?ラピード。」 「クゥゥ〜〜ン‥‥‥。」 (まあ、あいつが笑ってくれるなら、それでいいけどな) ユーリはもう一度ザーフィアス城を振り返る。 (また日を改めて行くとすっかな‥‥‥) 今度は邪魔が入らないようにと願いながら、ユーリはお節介な中間達の他愛無い会話を聞いていた。 〜後書き〜 久々にほのぼのした感じのを書いてみたら、ユリエスだけどオールキャラっぽいものになりました。 二人だけの途中までと、他のキャラが出た終盤ではガラっと内容変わり過ぎて、一つの作品というまとまりがないものになってしまいました‥‥‥‥。というかキャラ増やし過ぎると、まとまらないという事がよくわかりました。(苦笑) でもVのパーティーメンバーは全員大好きなので、皆出せて良かったですvv |